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ISSコラム
column by iss
AIが暴く脆弱性、追いつけない世界
2026.08.27

転換点を迎えた「CVE制度」の今と、私たちの脆弱性対応の変え方
「今年の脆弱性は、史上初めて7万件に迫る」――。そんな予測が現実味を帯びています。しかも、その急増を牽引しているのは人間ではなく、AIです。
世界中のセキュリティ製品や運用が拠り所にしてきた、脆弱性の“共通言語”であるCVE制度。27年続くこの仕組みが、いま静かに、しかし根本から揺らいでいます。今回のコラムでは、AIによる脆弱性報告の急増がもたらしている「異常事態」を数字で確認し、現場で何が起きているのか、そして私たち企業側は脆弱性対応をどう変えるべきかを読み解いていきます。
「脆弱性の共通言語」が、いま揺らいでいる
CVE(Common Vulnerabilities and Exposures)は、発見された脆弱性一つひとつに世界共通の番号を割り当てる仕組みです。「CVE-2021-22681」のような番号を聞いたことがある方も多いでしょう。この番号があるからこそ、ベンダーも防御側も“同じ脆弱性”について会話ができます。
ところが、生成AIを使った脆弱性探索が急速に普及した結果、脆弱性は「機械の速度」で見つかるようになりました。一方で、それを検証し、番号を付け、評価する作業は、依然として「人間の速度」のまま。この埋めがたい速度差が、制度全体をきしませています。Microsoftのある専門家は「脆弱性はAIの速度で出てくるが、我々は人間の速度で処理している」と表現しました。

図1:CVEは記録的に増えているが、本当に対応すべき対象はごく一部。量ではなく「リスク」で絞り込むことが要点となる。
増えているのは主に低~中リスクの報告。「実際に悪用される脆弱性」の数は、ほぼ横ばいです。
数字が語る、異常事態
まず、全体の規模感です。業界団体FIRSTは、2026年のCVE件数を年央時点で約66,000件と予測しました。年初(2月)の予測59,427件から46%以上も上振れし、史上初めて年間7万件級に迫る勢いです。
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66,000件 |
+46% |
横ばい |
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2026年のCVE予測件数(史上初の7万件級) |
年初予測からの上振れ幅 |
実際に悪用可能な脆弱性の数 |

図2:2026年のCVE件数予測(FIRST)。年央には約66,000件へ上振れし、史上初めて7万件級に迫る。
この急増が「AI起因」であることは、各所の数字に表れています。AI支援ツールによる探索を受けてMozillaの第1四半期のCVEは前年比+164%、GitHubのセキュリティ勧告は+449%、脆弱性情報を扱うVulnCheckの活動に至っては前年比+3,119%(約31倍)に達しました。

図3:AIによる探索が押し上げた主な増加率(前年比)。件数を押し上げる主因がAI起因であることを示す。
ここで見落としてはならないのが、「件数は激増しても、実際に悪用される脆弱性はほとんど増えていない」という事実です。FIRSTによれば、悪用実績(CISA KEV登録)や高い悪用可能性(EPSSスコア10%超)を満たす“本当に危険な”脆弱性は、ほぼ横ばい。つまり、増えた大量の報告に振り回されず、いかにリスクで絞り込むかが勝負になります。
現場で、何が起きているのか
「AIスロップ」がOSS保守者を疲弊させる
AIが生成する報告には、不正確な内容や、そもそも事実に基づかない“それらしい”脆弱性主張が数多く含まれます。こうした低品質な報告は「AIスロップ(AI slop)」と呼ばれ、少人数で支えるオープンソースの保守者や、企業のセキュリティ担当者の時間を容赦なく奪っていきます。厄介なのは、AIの性能向上によって、本物と偽物の見分けが年々難しくなっている点です。
象徴的なのが、広く使われるOSS「curl」の判断です。2026年初頭に受け取った約20件の報告がいずれも実在の脆弱性ではなく、16時間で7件が殺到したこともあり、同プロジェクトは1月末にバグ報奨金制度を停止しました。開発者のメンタルヘルスと限られたリソースを守るための、苦渋の決断でした。
脆弱性報告の「受け手」の運用が、AI起因の量的圧力で、実際に破綻し始めています。
NVD(国家脆弱性データベース)が“全件評価”を断念
影響は、防御側が最も頼ってきたインフラにも及びました。米国のNIST(国立標準技術研究所)は、2025年に前年比45%増となる約42,000件のCVEを評価しながら「それでも増加量に追いつかない」として、2026年4月にNVDの運用方針を抜本的に見直しました。
今後、詳細な評価(エンリッチメント)の対象は、悪用実績のあるもの(CISA KEV)・連邦政府が使うソフト・重要インフラのソフトに限定されます。それ以外は「Not Scheduled(評価予定なし)」となり、独自の深刻度スコアも原則付かなくなりました。「NVDのCVSSスコアさえ見れば安心」という時代は、静かに終わりつつあります。
制度は、どう変わろうとしているか
もっとも、関係者は手をこまねいているわけではありません。CVE制度・NVDは、次のような方向で対応を模索しています。
- トリアージの自動化:AIを使って一次選別を自動化し、担当者を“本当に重要な脆弱性”に集中させる。
- AI企業の参画:OpenAIやAnthropicといったAI企業が、自社モデルの見つけた脆弱性に自ら番号を割り当てられるようにする。採番機関(CNA)を500以上へ拡大する目標も掲げられている。
- 近代化の検討:NISTはNVD刷新に向けた意見募集(RFI)を公表し、「継続的・文脈的・自動化された」脆弱性管理エコシステムを目指すとしている。
- グローバル化:EUの脆弱性データベース(EUVD)など、CVE番号を軸にした補完的な仕組みが整備されつつある。
制度そのものが消えるわけではありません。しかし、その形は確実に変わります。だからこそ、利用する私たちの側にも、運用の“作り替え”が求められています。
私たちは、どう備えるべきか
ここからは、企業として今日から見直せる対策を、優先度の高い順に整理します。特別な製品より、「考え方」と「情報源」の切り替えが効いてきます。
① リスクベースの優先順位付けへ(最優先)
CVSSスコアの高低だけで判断するのをやめ、CISA KEV(悪用実績)とEPSS(悪用可能性スコア)を組み合わせて「実際に悪用され得るか」で対応順を決めます。「すべてに等しくパッチを当てる」発想からの脱却が出発点です。
② 情報ソースを多重化する
NVDの評価縮小を前提に、ベンダー勧告・各CNAの評価・EUVD・商用脅威インテリジェンスを併用します。加えてSBOM(ソフトウェア部品表)や資産インベントリを整え、「自社が実際に使っているもの」に絞って情報を突き合わせることが重要です。
③ 取り込みとトリアージを自動化する
脆弱性情報の取得から資産突合、優先度判定までを可能な範囲で自動化し、人手は高リスク案件の精査に集中させます。KEV・EPSS・CSAF/VEXといった機械可読フォーマットへの対応を前提に整えておくと、制度側が目指す自動化の方向とも噛み合います。
④ 「AIスロップ」を自組織でもふるい落とす
自社が脆弱性報告やバグ報奨金の受け手である場合は、再現手順やPoCの提出を必須化し、AI生成の未検証報告を入口で選別します。対応判断の前に脆弱性の実在性を必ず検証し、“捏造された脆弱性”への無駄な対応や誤ったパッチ適用を避けましょう。
経営・管理層への一言: 報告するときは「検出件数」ではなく、「悪用可能な脆弱性がどれだけ残っているか」で語りましょう。数の多さではなく、残存リスクの大きさこそが、経営判断に必要な指標です。
おわりに
AIは、脆弱性を“見つける力”を劇的に高めました。しかしその副作用として、私たちは「大量のノイズの中から、本当に危険なものを選び出す」という新しい課題に直面しています。CVE制度の揺らぎは、その課題が可視化された出来事だと言えるでしょう。
大切なのは、増え続ける数字に振り回されないこと。「量」ではなく「リスク」で向き合う――この一点を軸に据えるだけで、脆弱性対応はぐっと現実的で、持続可能なものになります。
インターネットセキュアサービス(ISS)では、脅威動向の監視や脆弱性対応の優先順位づけをご支援しています。「大量のCVEにどう向き合えばよいか」でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
参考にした主な情報源
Cybersecurity Dive(CVE制度とAIによる脆弱性急増)/FIRST「Mid-Year Vulnerability Forecast」(2026年6月・約66,000件の予測)/NIST「NVD運用方針の見直し」(2026年4月)およびNVD近代化に関するRFI/Help Net Security(NVDバックログとAIによるCVE増加)/BleepingComputer・The Register(curlのバグ報奨金停止)/Infosecurity Magazine(CVE制度へのAI企業参画)。数値は各出典の公表値で、予測値は年内に更新される可能性があります。